毎日新聞 地方版記事「Everyone is an Earthist.(誰もが地球人)」

えんぴつ日記2010:/8止 あいちトリエンナーレ /愛知
 ◇「地球人」の輪つなぐ

 「Everyone is an Earthist.(誰もが地球人)」。わかったような、わからないようなタイトルがついた展示空間だった。地球人という造語の中のartだけが緑色の文字。バルーン製の大きなウサギが肩ひじをついて中央に横たわり、床一面に敷き詰められた段ボール紙には、見物客が自由に絵を描くことができた。名古屋の繊維問屋街、長者町には、普段は少ない子どもたちも続々とやってきたが、私はそれを「落書き」と決めつけてしまった。

 名古屋の街を現代アートで彩った国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2010」(8月21日〜10月31日)。現代アートに対するとっつきにくさのイメージとは裏腹に、セルビア生まれのナタリア・リボヴィッチさん(34)と藤田央(とおる)さん(38)は、人なつこいアーティスト・ユニットだ。ウサギを主人公にした紙芝居や立体作品を手がけ、ナタリアさんは日本語で「一緒に遊ぼうよ」と話しかけて人の輪をつくった。会期末近くに「あの段ボール紙に約3万5000人が描いてくれた」と知らされ、驚いた。

 2人をトリエンナーレに招いたキュレーター、原久子さん(48)は「そこに来た人たちに絵を描きたい気にさせる、参加型インスタレーション(空間展示)だった」。この言葉を聞いたのは、ライトバン3台分に達した段ボールの山が廃棄処分された後だった。

 トリエンナーレも終わった12月5日、東京・目白のスタジオに2人を訪ねた。何が描いてあったのか確かめたかった。幸いにもブログに数十枚の写真が残っていた。

 「地球へ 5億年後も元気でいろよ!」

 「えんがわで日なたぼっこしたい」

 「今日もいい日。明日はもっといい日」

 「人のつながり、温かみ、アートの力のすごさを感じました」

 「大切な人がいます。2人で良い時間を過ごせています。地球、ありがとう!」

 メッセージを一つ一つ読んでいくうちに、「Everyone is an Earthist」の答えが見つかったような気がした。

 トリエンナーレでは国内外約130組のアーティストが世界最先端の作品を披露した。「作品がすべて」と取材を拒否した作家もいれば、私には「わからない」作品もあった。わかったのか、わからないのかわからないのも現代アートなのかもしれないが、記者としては少しでもわかりたい。

 ナタリアさんたちは今、スペインで開催中の欧州最大のビエンナーレ「マニフェスタ8」に参加している。アートの力で、地球人の輪をつなげているに違いない。【山田泰生】=おわり

毎日新聞 2010年12月25日 地方版

http://www.kiva.org/lender/7natureusagi